なぜ歯を磨かなければいけないのか?その理由

2017/03/10

歯磨きは治療の一つ

皆さんは歯を磨く目的は何かご存知ですか。皆さんは小さいころから、親御さんや学校の先生に言われ毎日の習慣の一つとして歯磨きをしてきたし、また、されているのだと思います。
歯磨きは、歯科医学的にはもっとも重要な口腔内を健康的に且つ衛生的に清潔に保つ効果的な予防処置であり、歯周病(歯槽膿漏)、虫歯(カリエス)に対する最も重要な治療のひとつです。

その理由は歯周病も虫歯も歯周病菌(歯周病原菌),虫歯菌(ミュウタンス菌)に感染して起こる疾患だからです。ではその菌とはどれかというと、よくテレビの宣伝などで言われているプラーク(歯垢)がそれらの菌の塊です。このプラークはお口の中の種々の雑菌や歯周病菌、虫歯菌が生きている状態で塊になっているものです。特徴としては、菌体から放出されるデキストランという物質により粘性(べたつき)が有り、歯の表面、特に歯と歯茎の境目(歯頸部)に粘着しています。楊枝で歯の表面をなぞってみると楊枝の先に白い塊として見ることが出来ます。

これをもう少し分かり易く例えると、お風呂場などの排水溝で掃除をしないでいるとカビが繁殖しヌルヌルした状態でこびりついているのを見たことがあるでしょうか。この状態と同じです。このカビが繁殖し膜状になっていることを細菌学的にはバイオフィルムといいます。そしてこの細菌のバイオフィルムは粘着性があることが特徴です。ですから、ブラシなどでこすり落とすか強力な薬剤で化学的に分解して落とすのです。

お風呂場や他の水回りでは強力な化学薬品洗剤を使用できますが、お口の中ではそんな薬品洗剤は使用できません。ですから歯ブラシで歯の周りについているプラーク(菌の塊)を擦って落とすしかないのです。つまり歯周病や虫歯の原因菌を除去することが歯磨きの目的なのです。これが歯の治療で最も重要で効果のある治療です。

歯磨き粉の落とし穴

歯石はお口の中に生息する雑菌、歯周病菌、虫歯菌が死んでしまった死骸の塊です。そしてこの歯石の構造は軽石のようになっていて中は気泡が多くあり、その中に毒性の高い細菌が多く生息し毒素を出しています。
皆さんは毎日の歯磨きで歯磨き用ペーストを使っていると思います。しかし、ペーストを使っているからと言ってきれいにプラークが除去できているかというとそうではありません。

もし歯磨き用ペーストできれいにプラークが落ちるのであれば、これほど多くの歯周病や虫歯の患者さんはいないのではないかと思います。また皆さんも歯科医院に受診された時に、歯科医師や歯科衛生士に「磨き残しや、歯石が着いています。もう少し、頑張って磨いてください」とは言われないだろうと思います。

もちろん、ペーストに全く効果が無いかといえばそうではありません。ペーストに含まれるフッ素をはじめとする種々の薬剤が歯周病菌、虫歯菌の繁殖を防いでいるのは確かだと思います。ペーストでは菌の絶対量を減らす効果はほぼありません。歯の表面に生息する菌の塊であるプラークを除去し菌の絶対量を効果的に減らすことが出来るのは機械的な歯磨きにより擦り取るほうが、ペーストによる抑制効果よりも勝っているのです。

歯磨き粉とも上手に付き合う

ペーストを使用して磨くことがいけないのではありません。ペーストを使用して磨くと磨けていない(プラークが除去出来ていない)のに磨けたと勘違いしてしまうところに落とし穴があるのです。もし歯科用ペーストを効果的に使うのであれば、先ず歯ブラシを水にぬらしそれで歯を磨きます。お口の中がさっぱりするまでよく磨きます。

途中で歯の表面を舌で舐めてみてください、ざらつきやヌルヌルした所が無いか確かめながら磨いてください。そうやって磨いていくとお口の中がさっぱりしてきます。
そこまで磨いてみてください。その時、お茶を用意しお口に含んでみてください。ペーストを使って磨いた後にお茶をお口に含むとお茶の渋みを感じるのと同じような渋みを感じます。

その状態がほぼ歯科医や歯科衛生士がいう良く磨けている状態です。でも100%ではありません。約90%前後です。この残った10%前後のプラークつまり菌の繁殖を抑制するのがペーストに含まれる薬剤なのです。
ですから、よく磨いた後にペーストを付けて軽く泡立てて磨き、泡立ったところですぐにお口をゆすがず5分そのままにしておいてください。当然唾液がお口に溜まりますのでそれは捨ててください。5分したらすすいで結構です。ただし、すすぐのは軽く2~3回です。何度もすすぐとペーストに含まれる薬剤が流されてしまいます。

これは傷口に薬を塗るのに傷口をきれいにしてから薬を塗るのと同じで、汚い所に薬を付けるよりきれいにして薬を付けたほうが効果があるのと同じということです。

歯磨きに最適なタイミング

ではいつ歯磨きをしたら効果的か?それは”就寝前”です。
理由はお口に生息する細菌は寝ているときに繁殖します。起きた時にお口が粘ついたり、口臭が強くなったりするのはお口の中に生息する細菌が繁殖しその細菌量が増えたからです。ですので就寝前に細菌の絶対量を歯磨きにより減らし、その上でペーストに含まれる薬剤により残った細菌の繁殖を抑制しておけば歯周病や虫歯に罹患するリスクが減り、また、すでに罹患している方はその病変の進行を抑制する効果があるのです。

また、歯磨きの仕方は人それぞれでひとりひとりにより手の動かし方、歯ブラシの形状、歯並び、お口の開け方、お口周囲の筋力等皆さん違います。ですのでその人に合った磨き方を歯科医院で習っておくことが重要です。
よく歯科医院で「よく磨いてくださいね。」と言われると思います。これも、皆さん子供のころから言われていると思います。しかし歯科医院に行くたびに同じことを言われませんか。どうやったらよく磨けるのかはひとりひとりで違うのです。具体的にご自分に合った磨き方を習って磨いていればそれほど言われないのではないでしょうか。

しかし、前述したように100%磨くのは不可能です。どうしても磨き残しが出来てしまいます。その磨き残しが歯周病の進行や虫歯の進行を助長します。ですから数か月おきに歯科医院に受診し歯石を取ったり、虫歯になっていないか診てもらったほうがいいのです。決して数か月おきに受診していれば、歯周病や虫歯に罹患しないということではありません。しかし早期に発見することにより処置が複雑にならずに済みます。また、普段の生活状況から原因を探ることが出来、原因に対しての対処もできるのです。

歯磨きは全身の疾患と関係している?

次に、歯磨きと全疾患との関連についてお話します。近年、歯周病と糖尿病、歯周病と循環器疾患など口腔衛生状態と全身疾患との関連性が言われています。
また、手術前には口腔内の歯石を取り、口腔内を清潔な状態にしてから手術を行うことがスタンダードになっています。ではなぜか。それはお口の中の雑菌、特に歯周病菌が手術後の合併症を引き起こす原因菌ということが分かってきたからです。

その主なものが誤嚥性肺炎です。唾液の中に歯周病菌がいてその唾液を飲み込んだ時に誤嚥して気管に入ったら、体力が落ちていたら飲み込んだ細菌の量にもよりますが、肺炎を起こす危険があります。これは介護を受けているご老人にも同じことが言えます。

歯周病菌は歯茎の炎症を引き起こし歯茎の血管から血管内に侵入し血管内壁に付着します。病原性の高い歯周病菌は鉄分を好むからです。つまり赤血球内のヘモグロビンです。そして動脈硬化の原因のひとつになり、心臓の弁に付着した場合は心内膜炎の原因菌ともなります。

糖尿病との関係でいえば、歯周病に罹患していれば必ず糖尿病になるわけではないのですが、糖尿病になるリスクが高いと言われています。また糖尿病で且つ歯周病に罹患している場合は、歯周病を治療するとA1Cの値が低くなることが分かっています。

アメリカでの報告ですが肩に人工の物(インプラント、人工関節)を入れた患者さんが、その肩を怪我したわけでもないのに感染を起こし、原因菌を特定したところ歯周病菌であったことが報告されています。つまり、その患者さんは歯周病で歯茎の血管から歯周病菌が体内に侵入し、肩のインプラント(人工物)周囲に付着し感染を起こしたということです。これは皆さんもよくご存じの歯を喪失したときによく行われるインプラント治療の最大の弱点である歯周病菌に対する易感染性と同じだと思います。

また、口腔内を清潔に保っていれば、日和見感染やインフルエンザに罹り難いということも言えます。ある小さな村でそこの歯科医師が村の人々の歯磨き指導をし、村民の口腔衛生状態を良くしたら他の地域よりインフルエンザの感染率が低かったという報告がありました。
以上、大雑把ではではありますが歯磨きの目的、大切さをお話しさせていただきました。

虫歯や歯周病が気になる方はもちろん、ここ数年歯科医院に行かれていない方、口臭が気になる方、歯磨きをすると出血をする方、奥歯を磨く時嘔吐反射があり磨くことに抵抗のある方、一度いらしてみてください。皆様に合った磨き方を一緒に考え、お教えいたします。

義歯(入れ歯)の方もどうぞいらしてください。総義歯ならば入れ歯の手入れの仕方、局部義歯(部分入れ歯)ならば、義歯の部分と残っている歯の磨き方をきちんとお教えいたします。「病はお口から」です。お気軽にどうぞ。